実現するかも、1人100万円台の宇宙旅行―。
ロケット打ち上げの際、空中に捨ててきた燃料タンク。これを「機体」として何度も使ってしまおうという“ロケットのリサイクル計画”が、日米両国で競り合っている。日本側の研究は、東京近郊の宇宙3機関。実現すれば、打ち上げコストは、100分の1に激減。市民の宇宙旅行が、現実のものとなりそう。
この計画をはぐくんでいるのは、いわゆる「宇宙3機関」(宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団)。
従来のロケットは、宇宙に上がるまで、燃料タンクを何度も切り離して捨ててきた。これを、燃料タンク部分も飛行機体にして、ロケットを積んで上空に。そこでロケットを打ち上げ、その後に燃料タンク役の機体も自力で帰着する。“2段式打ち上げ計画”と呼ばれている。
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宇宙旅行実現のかぎを握るスペースプレーン。
ロケットを打ち上げる土台となる。 |
燃料タンクに代わる機体が、「スペースプレーン」だ。音速の6倍で飛ぶ超音速機。日本の宇宙3機関が世界に先駆け、1987年(昭和62)年から取り組んできた。
3機関は、今秋の統合予定を前に昨年4月、計画を推進する運営本部を共同で立ち上げた。2010年代の有人宇宙飛行を目指す。
文部科学省宇宙科学研究所で、スペースプレーン開発の先頭に立つのが棚次恒弘・同研究所教授(59)の研究グループ。
これまでに、スペースプレーン用の軽量エンジン(ATR)の試作品を造り、性能試験を60回以上行ってきた。
八田博志・同研究所教授(52)は、強度の高い複合材料を使ったATRの部品開発に取り組んでいる。複合材料を使えば、機体が軽量になり、打ち上げコストの低下につながるからだ。
宇宙活動の商業化に取り組むパトリック・コリンズ麻布大学教授(50)は「宇宙旅行を商業ベースに乗せるには、スペースプレーンのような再使用型の機体を実用化してコストを抑えるしかない」と“ご推薦”。
コリンズ教授によると、通信衛星や放送衛星の打ち上げ費用は、1回約100億円。再使用型であれば、約100分の1のレベルに下がるという。
「1人乗りの戦闘機が開発され、その技術が何百人も乗ることができる旅客機に転移して商業化されたように、多くの人が利用できるようにしなければ宇宙観光は実現しない。米国のスペースシャトルの打ち上げコストは約500億円。乗れるのはたったの6人」
ただ、この計画は日本の独壇場ではない。日本の2段式打ち上げ計画に猛追してきたのが米国。その宇宙計画では、40年間で第4世代までの飛行機体を構想。現在のスペースシャトルが第1世代。第3世代で、日本と同じ2段式の打ち上げを計画、2025年ごろの実現を目指している。
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スペースプレーンの高性能エンジン模型を前に、開発の進捗状況を説明する棚次恒弘宇宙科学研究所教授。 |
日米両国とも2段式では、コストを約100分の1に下げ、1人100万−1000万円での宇宙旅行を可能にするという。しのぎを削る両国。棚次教授は「テロの影響があったためか、最近の米国は航空機の技術開発に力を入れ、2025年ごろに予定していた第3世代が前倒しになってきた」。
日本側の悩みは、やはり予算の縮小傾向。
国の予算は「特殊法人民営化の流れで、本格的な開発は民間活力に頼るようになってきた」(棚次教授)。その民間の方も「景気低迷で、リスキーな話に企業がついてこなくなった」(八田教授)
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軽量化エンジンの試作品を持ち上げる八田博志同研究所教授 |
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円盤を使って、エンジンの回転テストを行う同研究所の学生ら |
米国の調査会社は昨秋、年収25万ドル以上の富裕層約450人を対象にアンケート。それによると、10万ドル(約1200万円)支払ってでも数分間の弾道的な宇宙旅行をしたいと答えた人が約20%。2000万ドル(約24億円)支払ってでも、軌道に乗った長時間の宇宙旅行をしたいと答えた人が約7%いた。
昨年、ロシアの国際宇宙ステーションに乗った南アフリカの実業家は、ロシア政府に約26億円も支払っている。
宇宙旅行への機運も高まりつつある。その実現には、コスト削減が欠かせない。技術大国・日本の正念場。今年、“ロケットスタート”となるか。
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